古代史は小説より奇なり

林業家kagenogoriが古代の謎を探求する

義経と黄金 暗躍する「鬼」と「異類異形」①

 「鬼」

 言うまでも無く、古来からの日本人が思い描いてきた、想像上の産物です。

 見た目も醜悪で怖ろしく、残虐・無道・無慈悲で、人間社会の「外部」 (人里離れた山奥、あるいは「この世」ではない所)からやって来ると信じられていました。

 もとより「物の怪」の類であり、人間にとって恐ろしい存在の象徴が「鬼」だったのです。

怖い鬼のイラスト | かわいいフリー素材集 いらすとや 

 しかし、この日本には古代から中世にかけて、社会から「鬼」とされてきた(というよりされてしまった)人々が存在していました。

 なかには「鬼の子孫」を自ら名乗る人びとさえいました。

 

 「鬼」は人間社会の「外部」から来ると言いましたが、 「鬼」とされてきた人々とは、まさに当時の一般社会(と言って悪ければ一般民が暮らす村落共同体や都市、あるいは体制)の”外側”に位置していた人たちだったのです。

 

 分かり易く言えば「ジブンたちとは異なる人びと」

 

 古代の蝦夷(エミシ)土蜘蛛などといった、朝廷という”王土”から見た”辺境”「まつろわぬもの」 (朝廷の支配に抵抗する勢力・部族など)と呼ばれた人たちも、これに含まれることはもちろんです。

 

 また海の外からの漂着者や海賊、”王土” や共同体の ”周辺” である山々に棲む先住の民や職能民も、しばしば「鬼」とみなされました。

 (「鬼」についてはこちらもご参照のほど↓)

kagenogori.hatenablog.jp 

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 さらに特殊な例ですが、京都の八瀬の集落の人々、すなわち天皇天台座主の葬送において柩を担ぐ役目を負う「八瀬童子や、鞍馬山貴船神社の社人を長らく務めた「舌(ぜつ)」家など、体制の「外側」ではなく「内側」に組み込まれた「鬼」もいます。

 これが先述した「自ら鬼の子孫を名乗る人びと」です。

 

 ちなみに八瀬童子のように、 「鬼」はしばしば童子と呼ばれます。

 大江山酒呑童子が有名です。

 

 

 しかし別に”辺境”や”周辺”でなくとも、一般の共同体の「外部」に属する人々は存在しました。

 「異類異形」と呼ばれた人たちです。

 網野善彦流にいえば「遍歴(漂泊)する職能民(芸能民)」

 漂泊するといっても自由気ままにアチコチ移動するというよりは、一定の地域を定期的に往還する場合が多かったようです。

 

 

 「異類異形」特殊な技術を持った人々でした。

 当ブログでたびたび言及している(ワタシ流に言えば)境の場の住人」に属する人々です。

 

(「境の場の住人」に関する記述はコチラ↓)  

kagenogori.hatenablog.jp 

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 また町中に存在する「境の場」を拠点とする人たちもいました。

 後述する鬼一法眼(きいちほうげん)頭目とする京の一条堀川を拠点とする民間陰陽師集団や、北白川印地打ち集団

 中世後期以降「河原者」と呼ばれた人たちもここに含まれます。

 

 ちなみに「鬼」「異類異形」は、似たような概念であり、微妙に重なる部分もあったりしますが、混同は避けるべきではないかと思われます。

 あくまで個人的意見ですが。

 ワタシがこれまで数多く読んで来た本のなかには、両者を完全に混同したり、「異類異形」をすべて「鬼」の範疇に入れてしまっている例(誰の何という著書かは完全に失念してしまっていますが、まぁ、薄っぺらい(笑)本でした)が見受けられたりしましたが、いかがなものかと思います。

 もちろん当時の人々にしても、ある人から見ればただの遍歴・漂泊芸能民に見えても、ある人から見れば同じ対象でもそれが「鬼」と認識されるといったことはあったでしょうし、そもそも明確に分別することが出来ない場合 「自ら鬼の子孫を名乗る人びと」などはそうかもしれませんもあるのですが、やはり「鬼」「異類異形」は分けて考えたいところです。

 便宜上においても、また当時の実状においても。

 

 話しを戻しましょう。

 彼ら「異類異形」は古代から中世初期にかけては、

神仏から授かったと半ば信じられた、その特殊技術

と、さらには

寺社との深い結びつき」あるいは「天皇家との結びつき(※)

などにより、畏怖され、またそれゆえに忌避される存在でした。

 要するに「権威」を背後にまとって、半ば疎まれる存在でもあったわけです。

(※)その職掌の起源が、貴種流離譚に見られるような天皇家出身の人物によるものだったり、古く天皇家のお墨付きを戴いたと主張するものだったり、また古く天皇家のそばに仕えていた職掌に由来するものだったり。

 

 それが中世の中期以降、早い場合はすでに古代の末期あたりから、背後にあった「権威」失墜するにつれて、彼ら「異類異形」と呼ばれた人々は次第に”賤視”の対象とされ、いわゆる被差別民ともなってゆくのです。*1

(財力を蓄えたり、新たな「権威」に結びついて、それを逃れる人たちももちろんいました。)

 

 それには(中世中期以前には)背後の「権威」を笠に着ていたこともひとつの要因ではあったのですが、それ以上に、彼らの職掌の多くが「穢れ」に関わるもの、もっといえば「ケガレのキヨメ」に関わるものだったということが考えられますが、このことを語り出すとかなりハナシがどんどんズレて行ってしまうので、それはまた別の機会ということにしましょう。

 

 さて、やっとで主役の義経(笑)。

サムネイル画像

 不思議と義経の周りには、幼少の頃から常にこうした「鬼」「異類異形」と呼ばれた人たちの存在が見え隠れしているように思われるのです。

 

 鞍馬山の天狗(烏天狗

 これは、まぁ”伝説”の類ではありますが。

 

 先述した鬼一法眼

 

 武蔵坊弁慶

サムネイル画像

 

 金売吉次

 

 そして奥州藤原氏

 

 これらの人物と義経の関係について、 「鬼」 「異類異形」という視点で検証していきます。

 が、長くなったので今回はここまでにしておきますm(_ _)m

 前置きだけで終わってしまいましたが(笑)。 

 

 次回以降、注目すべき宗教・信仰とのカラミなんかも出てきます。

 これで義経の「謎」が解ける、かな?(^^;)

 

 参考文献:

義経伝説をゆく―京から奥州へ
 

 

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*1:一方、「鬼」とされた人々の中でもとくに「まつろわぬもの」に対しては、当初から差別の対象とされてきた一面があったように思われます。